大阪高等裁判所 昭和26年(ナ)704号 判決
控訴人は「原判決を取消す、本件を原裁判所に差戻す、訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決を、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は、控訴人において、控訴の理由として要するに原判決は控訴人の主張事実を故意にまげ、法規の適用解釈を誤つているといい、なお別紙控訴人の主張を単純明確化する準備書面記載のとおり述べた外原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
先ず控訴人の控訴の理由として主張する点について判断する。控訴人は、原判決は控訴人の主張事実を故意にまげ、法規の適用解釈を誤つているというけれども、本件記録に照して見ると原判決は控訴人の事実上の主張の要旨を誤りなく摘示していることは明白であるのみならず、控訴人主張の如き事実ありせば、当裁判所の判決において、これを是正すれば足りるのであつて、もつて本件を原裁判所に差戻すべき理由とすることはできない。
よつて次に控訴人の本訴請求の当否について審究する
控訴人の本訴請求の原因とするところは、要するに、控訴人は、兵庫県武庫郡住吉村の住民であるところ、被控訴人は、昭和二十五年三月四日、右住吉村及び神戸市の合併申請に基き、同月二十日兵庫県議会の議決を経て、同月二十四日その合併の決定をした。しかし地方自治法第七条が市町村の廃置分合をその市町村の申請にかからしめたのは、その市町村の総意を尊重せんがためであるから、控訴人は住吉村民有志と共に同月四日同法第七十六条により、同村議会の解散請求に着手し、これによつて合併の賛否を村民の総意に問わんとし、同月中旬頃には既に選挙権者総数の三分の一以上の、議会解散請求者の連署を得たので、当時同県議会及び同県当局えその旨連絡し、右合併に関する議決ないし決定の延期方を陳情した。かような場合には、被控訴人は、右解散請求の結果をまつて、合併に関する議案の附議及び決定をなすべきものであるにかかわらず、これを為すことなく前記の如く合併決定をなし、控訴人が代表者となつて、手続中の住吉村議会の解散請求権の行使の自由を侵害したもので違法であるから、右合併決定の取消を求めるというのであつて、すなわち控訴人は議会解散請求権を行使した時は、既にそのことによつて、地方自治法第七条の合併決定はき束せられ、右請求権行使の結果をまたずしてなされた合併決定は、右請求権の行使の自由を侵害するものなりと主張するのである。
案ずるに地方自治法第七十六条ないし第七十八条によると、議会解散請求、その解散投票の結果選挙権者の過半数の同意があつたとき、選挙管理委員会の投票の結果発表の日に、始めて、議会は解散するものであり、一方同法第七条は、市町村の合併は、関係市町村の申請に基き、これを包括する都道府県議会の議決を経て、その都道府県知事がこれを定めると規定するに止る。
これ等の規定を併せ考えて見ると、法は市町村の合併については、関係市町村の申請すなわち、その市町村の議会(この議会はもともと選挙権者の選挙に基いて成立したもので平たく言えば当時の住民の総意に基くものといい得べく、しかも解散請求手続中といえども前示解散の効力の生ずるまでは、その有する権限を行使できることはいうまでもない)の議決を経た市町村自身の申請あることをもつて足るものとし、それ以上これについて住民の直接の意思の表明を要請しないものと結論せざるを得ない。
して見ると控訴人等の住吉村議会の解散請求の手続中、被控訴人の同法第七条所定の手続を経てなした本件合併決定は何等違法の点のないものというべきである。
若し前示控訴人の見解の如しとせば、関係市町村の議会の解散請求の手続に着手するときは、――従つて、地方自治法第七十八条所定の過半数の者が、合併の議決をした議会の解散に同意するや否や未だ判明しない以前において、既に同法第七条の合併決定はできない結果となり、それはあたかも選挙権者の半数に達しない一部の者の意向によつて、前示のような手続を経てなされる右合併決定が阻止できるというにひとしく、前示各法条に照し、殊に控訴人自らも強調する住民の総意に基き運営することを根本の趣旨とする地方自治の精神に鑑み、右控訴人の見解は到底是認し難いところである。
控訴人の本訴請求の失当なることは以上の説明によつて明白であるから、これを排斥すべきものである。原判決はこれと同趣旨であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)
控訴人の主張を単純明確化する準備書面
一、当事者間の争点
原告は初め神戸市え住吉村の合併を議決した住吉村議会が合併を議決するに至る迄の行動を見るに住民の総意を無視し議員自己の利益の為めに行動し住民の代表者である責務に反して反省を肯えんじないので已むなく住吉村議会の解散請求権を行使した
処が被告は地方自治法第七条により合併決定を為し原告の議会解散請求権の行使を妨害した
それ故原告はかくの如き妨害自体は住民の議会解散請求権を侵害するが故に被告の合併決定は違法であると言う主張をしたのである処が被告は第七条に従つて合併決定をしたのであるから違法でないと言つて争うことになつたのである。故に法律解釈の争であつて事実の点には争がない。
然らば法律解釈の争はどこにあるかと言えば被告の主張は被告は第七条所定の事項を守れば足り七条以外の規定の命ずる処は守らなくてもよいと言うのであるそれ以上の説明をしていない而して他方原告の議会解散請求権の侵害に対しては議会解散請求権と合併問題との間に何等の関係がないと言うのである、
従つて両者間の法律解釈の争は左の二点にある。
(イ)第七条所定の事項を守れば被告の合併決定は適法であるかどうか
(ロ)議会解散請求権と合併問題との間に関係があるかないか
二、原告の主張に依ると(イ)と(ロ)とは同じことになる
原告の主張は第七条には第七条所定の事項は合併決定になくてならないことを規定するが第七条所定外の要件を否定する意味がないと言うのであるから議会解散請求権を議会が合併問題を議決する場合にも法律上行使する自由を認められておれば被告と雖その自由を犯すことはできないのである。さうすると第七条所定の事項を守るだけで直に適法と言えないと言うことになるのである。従つて原告としては合併問題と議会解散請求権との間に関係があると言うことを論証すれば問題は解決するのである。
三、合併問題と議会解散請求権との間に切つてもきれぬ関係がある。
原告は合併問題と議会解散請求権との間に密接な関係のある理由を明にしたのである。左の通り。
(イ)第七条が合併問題について議会の議決を要するとした趣旨は議会が住民の選挙によるもので住民の代表機関であるからである従つて住民は合併の議決に対しても責任を負はねばならぬ而して議会は地方自治の本旨に従つて議会の運営に当らねばならぬ議会解散請求権も亦議会が住民の選挙による機関であつて住民の信頼を必要とするという基礎から認められた権利である而して亦議会解散請求権は議会を通じて住民自らが間接に自己の行政を行うという建前から認められたものである両者は同じ基礎の憲法精神から認められておる。
(ロ)議会解散請求権は議会を否定することを目的としたものでなく議会が本来の使命を逸脱することを事前に防止することを目的とする議会にして解散するに非ざればどうしても住民の代表者たる行動が取れないという最後の場合でないと行えぬ仕組になつており合併問題を議決した議会でも他の問題を議決した場合でもこの点では何等区別する理由はない。
(ハ)第三の理由が最も大きいのであるが合併問題も議会解散請求権も地方自治立法者はこの二つを関係あるものとして地方自治法を作つたことを明言しておるのである、故に現実の地方自治法の構成から言つてこの両者は密接なる関係がある。
四、然るに原判決は原告の主張した点について審議せず徒に控訴人の解釈に苦む言辞を弄しておるに過ぎずして実質的に被告の主張の正しい所以を説示していない。
五、原審は今や自己の誤を知りつつ過去の誤謬の結果を維持せんと苦慮するもので真に公平に裁判すると言う意図がないことを判決に露呈しておる。
六、原告の主張の要約
原告の主張を要約すれば左の如し。
(イ)第七条は合併問題について関係市町村の議会の議決を必要とする規定である。従つて議会の議決の有無は被告の合併決定の要件として被告の合併決定を覊束する。第七条所定の事項は合併問題に特殊の要件であつて民法や刑法で言えば各論的要件に該当する。
(ロ)第七条には第七十六条乃至第七十九条の運用を禁止又は制限する意味はない。
(ハ)第七十六条乃至第七十九条は議会の職務執行に当り住民に対し住民の代表者としてその職務を追行すべき責務を命ずるもので若し議会がその責務に違反すれば住民は監視権として議会解散請求権を行使する自由を保障しておる故に被告は他の第三者と話様の立場でその自由を犯してはならない。議会の右責務は議会が合併問題を取扱う場合とで差別する理由がないから議会の職務の内容の如何を問はず何づれの場合にも共通に右の自由を犯すことは許されない従つて此事は民法や刑法で言えば総論的要件に該当する。
(ニ)右両要件は具体的場合には両者相俟つて守らるることにより関係市町村の完全なる合併に対する意思表明となり住民は心から両要件の備つた合併に対し責任をとることが出来自己の為した合併であると感じることができる。法はこの事を要求しておる。
(ホ)右の解決方法は地方自治法の構成全体の調和に適応する。之に反し被告の議会解散請求権は合併問題については権利と認められぬと言う解釈は第七条を過重に取扱ひ地方自治法の権成の調和を破るものであるから真の解釈ではない。
(ヘ)原判決が一方的な被告の見解を取り当事者の主張の当否に言及せず而も理由を充分に尽くさぬのは不公平な裁判の証拠である殊にことさら敗訴者に理解できない程度に文言を省略し論旨の筋道を通していないことは原告の主張に鑑み原審自体自己の誤を認めておる証拠である。